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Masakazu Mishima

私の研究:応用言語学の世界

はじめに

応用言語学の世界は、人間特有のコミュニュケーション手段である言語に関わる広範なトピックを研究する領域横断的な研究分野です。伝統的な言語学を含め、政治学、経済学、人類学、心理学、教育学等、多くの社会学系分野とも関連しており、その多様性は他に類を見ません。

私の研究活動もその多様性を反映し、専門領域である第二言語におけるライティング(L2ライティング)の研究から、English as a Lingua Franca (世界言語としての英語)に関する研究、またCALL(Computer-Assisted Language Learning:コンピュータを使った語学学習)に関する研究等多岐に渡っています。本文では今年出版されたCALL分野の研究(題名:The impact of a computer-mediated shadowing activity on ESL speaking skill development)と来年度出版が決まっているL2 writingに関する研究(題名:Teacher cognition and L2 writing feedback: A case of an experienced L2 writing instructor)について紹介させていただきます。

ウェブアニメーション作成ソフトを使用したシャドウイングの効果

米国インディアナ州にある、パデュー大学(Purdue University)の博士課程に在籍中、非常勤講師として同大学のOral English Proficiency Program(OEPP)という部署にて大学院生への英語指導を行っていました。

このプログラムでは大学院レベルの国際留学生を対象に、ティーチングアシスタントして授業を担当できるだけのスピーキング力があるかテストを実施しています。またテストの結果、サポートが必要な学生に対して英語のスピーキング力とプレゼンテーション能力を育成する大学院コースを提供しています。

このコースの担当教員であった私は、多くの受講者がそもそもの英語力(大学院入学基準がTOEFL iBTで100点以上)に問題がないにも関わらず、非常に聞き取りにくい、わかりづらい英語を話していることに着目し、その解決策を模索しました。先行研究を精査し、その結果発話における、聞き手に対する明瞭度に特に影響があるのが、stress、rhythm、そしてintonation、の三つを内包したprosody(韻律)にあると仮定し、これを改善する方法としてシャドウイングを用いた指導法を実践しました。

この手法に対する学生の評価が高く、その後データ分析のサポート役として、上記プログラムで勤務していたDr. Chengを迎え、その効果を検証しました。このシャドウイング法のユニークな点は、ウェブ上にあるデジタルアニメーション作成ツール(下図参照: Mishima & Cheng, 2017より抜粋)を利用する点です。学生は各々がTED TALKSから自分がモデルとしたいスピーカーを選択し、そのスピーチの一部を利用してシャドウイングを行います。練習は全て音声記録し、自分のスピーチとモデルとの差異を埋めるよう繰り返しシャドウイングを行います。

最終的にTED TALKSのスピーチをデジタルアニメーション化し、自分の声をアテレコし、モデルとして利用したTED TALKSを再現するのが一連の流れとなります。研究の結果、この指導法によって発話者の韻律コントロールを改善し、発話の明瞭度を向上させる可能性がある事が示唆されました。また、作成したアニメーションを使用して学生同士が互いの発音にフィードバックを返すpeer reviewのタスクにおいては、アバター(アニメーションキャラクター)を利用する為、相手に問題点を伝えやすい等、忌憚のない意見が交換できるというポジティブな効果がある事がわかりました。上記の研究はパイロットスタディとして実施した為、今後より多くの学習者に対しても教育効果が期待できるかを評価する更なる研究が必要となります。

L2ライティングにおける教員のフィードバックとその意思決定要因

L2ライティングの研究は1990年代Dr. Tony Silva(Purdue University)やDr. Paul Kei Matsuda (Arizona State University)等の学術的貢献からスタートし、多くの研究者の活動を経て、現在では応用言語学の一分野として現在も拡大を続けている研究分野です。私にとってこの研究分野での活動を始めるきっかけになったのが、パデュー大学でのアカデミックライティングコースの指導を担当した事です。

アメリカ人大学生や英語を母語としない国際留学生を指導する中でライティングの教授法や研究を学ぶ必要性を強く感じた私は、どうすればライティングをより良く指導できるかという問いを中心に研究活動を行いました。その中で特に興味を持った問題が、ライティング指導における教員によるフィードバックについてです。

フィードバックの研究はL2ライティングでは非常にポピュラーなトピックで、指導法の性質上、教員への負荷が大きいため、時間と労力に値する教育的効果が望めるのかという問いや、またどのようなフィードバックが有効かという問いに対する研究が広く行われてきました。

近年では、Ferris(2014)等の学者が、教員がフィードバックを行う際の意思決定要因を調査する研究が行われ始め、これまでのフィードバック研究から一線を画し、指導教員を取り巻く様々な社会的・教育的なコンテクストとフィードバックとの関連が注目されています。この背景を踏まえて、先ごろ出版が決定した私の研究では、教育学において長く研究されてきたteacher cognition(教員の認識)の視点からライティング教員がどのようにフィードバックの意思決定を行っているのかを、situated case study approachを用いて調査しました。

先行研究では、主に量的手法を用いる研究が多く、マクロな視点で教員の意思決定要因を探る試みが大半を占める為、本研究ではケーススタディとして、一教員の意思決定にフォーカスしインタビューやオブザベーション、フィードバックや学生のエッセー等の質的なデータを利用し、ethnographic(民族誌学的)な手法を通して教員のフィードバックにおける意思決定要因を研究しました。

研究の結果、教員のフィードバックに関わる意思決定は、フィードバックという指導法に関連した一定のルール(Principles)とそれに付随する複数の要因(下図参照: Mishima, in pressより抜粋)に基づいて行われている事がわかりました。この意思決定ルールは教授経験を踏まえて徐々に形成され、以下の6つの要因と関連している事がわかりました。

  1. 学生のライティング能力
  2. 授業内での課題におけるパフォーマンス
  3. 授業で教えた内容
  4. 効果的なフィードバックに関する教員の知識
  5. フィードバックの対象となる学生のライティングにおける問題の性質
  6. そして授業の一環として行われるライティングコンフェレンスの存在(学生のエッセーに関して教員と学生が1対1での面談を行う指導法)

上記の要因は、教員のフィードバックにおけるPrinciplesと複雑に絡みあい、どのような形式でフィードバックを与えるかという意思決定に明確な判断基準を与えている事がわかりました。

先行研究における結果では、teachers’ beliefs(教員の信念や信条)という定義が非常に難しい要因やeducational climate factors(教育風土に関わる要因)等を含む教員の意思決定における間接的な要因を報告するものが多く、実際のフィードバックを検証した際に、これらの要因では説明がつかないケースがある事がわかっています。この点で本研究はフィードバックにおけるより直接的な意思決定要因と選択結果を明示したという点において大きく異なります。この結果を元に、本論文では、 task-specific principlesという教員が行う様々な指導におけるタスクに対する意思決定ルールという概念を理論化する事で、今後の研究への足掛かりになる事を期待しています。

現在の研究

現在は、ecological approachの観点から、学習者が教員のフィードバックを経てどのようなプロセスでエッセーを修正するのかを研究しています。この研究では学習者を取り巻く環境条件、即ち学習者がアクセス可能なsocio-material resources(物資的及び社会的なリソース)とライティングという学習行動の関係性に視点を置き、特にsocio-material resourcesと学習者が行ったエッセー修正における学習行動との関連を研究しています。また、本学の原田理英先生とL2 motivational self system(Dorneyi, 2009)の視点から学生の英語学習に対するモチベーションと英語の授業内における学生の学習行動や課題への取り組み方との関連を共同で研究しています。

おわりに

英語教育に携わる者として、現場での教育とその質の向上への思索と努力を常に行っていく事が大切と考えています。その上で研究活動を行う事で教育者としても、また研究者としても新たな学びや発見が得られる事が私にとって大きな喜びとなっています。今後も更に活発に新鮮な息吹をもって学生と共に日々成長していきたいものです。

参考文献

  • Dornyei, Z. (2009). The L2 motivational self system. In Z. Dörnyei & E. Ushioda
    (Eds.), Motivation, language identity and the L2 Self pp. 9-42. Clevedon: Multilingual Matters.
  • Ferris, D. R. (2014). Responding to student writing: Teachers’ philosophies and practices. Assessing Writing, 19, 6-23.
    doi: 10.1016/j.asw.2013.09.004
  • Mishima, M. (in press). Teacher cognition and L2 writing feedback: A case of an experienced L2 writing instructor. Writing & Pedagogy, 10, (2).
  • Mishima, M., & Cheng, L. (2017). The impact of a computer-mediated shadowing activity on ESL speaking skill development: A pilot study. L2 Journal, 9, 21-35.